『マネーボール』は情報分析の心構えを示したバイブル

ある方より紹介された『マネーボール』の文庫版を読んだところ、野球という具体例を題材に情報分析の威力がまざまざと記されており、とても素晴らしい本と感じましたので、リサーチャーの立場で感想を紹介したいと思います。

この本は、メジャーリーグの野球チーム・オークランド アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリービーンが、野球というゲームを「27個のアウトを取られるまで終わらない競技」という定義をして、そこからゲームに勝つための要素を分類し、それぞれをデータ分析することにより良い選手の定義を見つけ出し、さらにデータ分析により選手の正しい評価を見積もり、アスレチックスというチームを強化していく課程と結果が書かれております。

データ分析の経験がある方は経験していることかと思いますが、分析をしていくとどうしても分析結果と専門家の常識とに違いが現れることがよくあります。こうしたとき、データ分析家は常識と自らの分析結果の違いに悩みつつも、自らの分析結果を信じて真実を明らかにしていくのです。

なぜ、自らの分析結果を信じるのか。

それは、専門家の常識に客観的な視点からの「一般性」や「良い選手の定義」が欠けているためです。データ分析に基づかない常識による判断というのは、山勘でしかないと考えているからなのです。

例えば、この本では、新人選手のスカウトマンが専門家として登場しますが、良い新人選手を採用しようと考えたとき、常識では、打率がよい、足が早い、肩が強い、体格がよい、という基準は一見異論を挟む余地もなく正しいと思われがちですが、これらの基準は

  • 自己経験の過度な一般化(人間は自分の立場のみで物の判断をしてしまう)
  • 直近の成績の重視(人間は昔のことは忘れてしまう)
  • 目で見た内容における偏見(人間は色眼鏡で物を見てしまう)

という様々なバイアスを含んでいるため、必ずしも正しい判断基準ではない可能性があるのです。ビリービーンはこの専門家の基準に疑いを持ち、よい打者の条件は、出塁率長打率であることを分析結果から明らかにし、スカウトマンの常識通りに選手を獲得した際に良い選手を取りこぼしてしまうという不利益を回避していくのです。

上の例でわかるのは、残念ながら人間の判断というのは、多かれ少なかれ上で挙げた欠点を持っており、正しい判断をする際にはデータ分析の基本

  • 分析の目的の定義
  • 定義より得られる妥当な評価基準
  • 多数のサンプルによる検証
  • 信頼性のあるデータ

が重要になってくるということです。それだけにGoogle

・データが判断をもたらす
グーグルでは、ほとんどの判断というのは、量的分析に基づいている。私たちは、インターネット上の情報だけでなく、社内の情報をも管理するシステムを作り上げている。私たちは、多くのアナリストを抱えており、彼らが業績を解析し、トレンドを描くことで、会社を可能な限りアップトゥデートに保つことができる。

という姿勢は、非常に素晴らしく、また脅威に感じるほどです。マネーボールで紹介されたアスレチックスと同様にGoogleでも独自の評価基準を持っていたりするのかもしれませんね。

いずれにせよ、情報分析のスキルを身につけることは良い判断をするために改めて大切であり、さらに勉強を進めていきたいと感じさせてくれる本でした。

この本にはこれ以外にも固定観念による弊害や問題の定義の具体例などが豊富に記載されており、今後繰り返しよんで、データ分析を進める際の手本にしていきたいと思います。

マネー・ボール (RHブックス・プラス)

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